●これまでに紹介した「シーボーン昭徳​」の逸品(2)

刺身は英語でsashimiだが、切身はあくまでsliceである。だが、包丁にさほどこだわらず、キッチンバサミも多用する国のsliceと日本の切身は中身がまるで違う。それはこの「無塩切身」の美しさにもはっきり現れている。日本の切身は魚の個性を鮮やかに切り出す。sushiでようやく魚の多彩な味に気がついた人たちは、切身の豊かさにはまだ至らない。

本品はマダイ、ブリ、サワラ、カンパチのセット。シーボーン昭徳では、この無塩のシリーズを3年ほど前から売り出したそうだが、すぐにファンが付いたという。おそらく調理のしやすさだけで人気なのではなく、料理好きのココロをくすぐるものがあったからだろう。なぜなら4600円(税込)というけっして安くない価格。量的にも子供のいる家族向きではないからだ。

シーボーン昭徳なので、言うまでもなくすべて九州近海の天然物。とくにサワラがすごい。3~5kgの大型成魚という希少品だ。いわゆるサゴシのサイズとは脂ののりが違い、その脂もしっとりとして上品である。そのほかマダイ、ブリ、カンパチも、あらためて養殖と天然の違いを知るには格好のセットだ。養殖がかなり進歩している今だからこそ。

照り焼き、煮付け、味噌漬け、酒蒸し、ムニエル、ホイル焼きなどのほか、シーボーン昭徳の西木孝明さんによると、マダイやカンパチは椀種にするのもおおすめである。ちなみに「サワラのヨーグルト味噌漬け」は陶芸家の坂本素行さんの斬新なアイデアだが、レシピを知りたい方は『糖尿病S氏の豊かな食卓』(文春文庫)を買ってください!(2019年2月)

世に料理人が書いた本(ないしは書いてもらった本)は星の数ほどあるが、玉石混交のなかで浅草弁天山美家古寿司4代目の内田栄一さんが30年ほど前に出した『江戸前の鮨』は、とても味のよい名著だと思う。私は「寿司ネタはピチピチのナマに限る」と思い込んでいるバーバリアンしか住んでいない北海道生まれなので、江戸前寿司の神髄は「仕事」、つまり下ごしらえにあることをこの本を読むまでほとんど知らなかった。小肌にヒラメの昆布締めにマグロのヅケに煮アナゴ。いずれもピチピチナマナマ信仰の地では、まともな味に出合えない。安さ重視の回転寿司でも同様だ。

シーボーン昭徳の「しめさば」を初めて食べたとき、即座に江戸前寿司の一流の仕事」を思った。こちらは”肥前前”だが、限りなくナマに近い処理ながら、最大限にうまみを引き出しているところが江戸前なのだ。安いしめさばは身が白っぽいが、これはご覧のごとく鮮紅色。舌触りもなめらかで、活きのよい刺身と変わらない。なおかつ、刺身同様に魚の脂をしっかりと感じられることに誰しも驚くだろう。口の中で溶けてそれは上品な甘みとなり、身のうまみと一体化するのだ。

純米酢、三河みりん、そして、もろみを2年間熟成させたコクのある醤油を合わせた甘酢には、まるで余分な甘さを感じない。締め加減も抑えているので、ほとんど刺身のような味わいである。しめさばは元来保存食なので、身が白っぽくなるまで締めるのは正当だったが、今や冷凍すれば保存が効くので、締めすぎるのはアナクロニズムというものだ。結局のところ、魚の味をごまかしたいメーカーがしっかり甘酢に漬けてしまうのだろう。

このしめさばも、冷凍から冷蔵に移し、しばらくおけば甘酢がどんどん身に入っていく。どのタイミングで食べるかは好みだが、絶対に解凍後にすぐ食べるのがおすすめだ。包丁の切れ味で味が変わるから、できればちゃんとした柳刃包丁で切り分けたい。でも、かく言う私も持っていないので、せめて正月には生ワサビを用意して、これを味わいたいと思う。正月にしめさばというのはピンと来ないかもしれないが、半端な値段でマグロやブリの刺身を買うくらいなら、このしめさばのほうが、100万倍幸せな三が日を過ごせる。

漁場は五島沖や済州島沖。しかし10年ほど前からずっとマサバ漁は苦境に立っている。11~12月の寒サバのシーズンに海水温が下がらず、日本のEEZ内によい魚群が現れる回数が減ってきたからだ。加えて2014年頃から日韓漁業協定がこじれ、済州島近くまで日本の船が入れない。以前から頻発していた韓国漁船の違法操業に対して日本側が抗議したことに端を発しているが、虎網操業を続ける中国漁船といい、アジアの海ではまるでオトナの関係が築けない。頭が痛い話だ。

このセットで味わえる「玄さば」は、マイナス60℃という、通常はマグロにしか使わない超低温の冷凍庫で大事に保管し、鮮度を保っているものだが、東シナ海の現状が打開されない限り、残念ながら、どんどん希少な味になっていくだろう。(2018年12月~2019年1月)

お歳暮のシーズンである。知人に魚好きがいたら、ぜひこの天日干しのセットを選択肢の一つに加えてほしい。マサバ、マアジ、サワラが2枚ずつ、レンコダイとカマスが1枚ずつの計8枚で税込み4400円。しかも送料無料(北海道と沖縄を除く)という出血大サービス品である。目玉は、シーボーン昭徳が身や脂の質において一級品と見定め、独自に名付けた「玄さば」「玄あじ」の天日干しだ。「玄」は玄人の「玄」。自ら玄人を名乗っているほど目利きに自信があるわけだ。

マアジについてはここでたびたび書いてきたが、マサバもシーボーン昭徳の看板魚である。マサバは金華サバなどの三陸産がいちばんうまいという人も多いが、私の好みは九州産。正確に言えば、シーボーン昭徳が、長崎や唐津、松浦の魚市場で目利きしたマサバである。それ以外の、たとえば関サバなども値段なりの価値はあると思うが、私は脂が少々くどいと思う。このところ好漁が続いている三陸産も、同様に脂が強すぎる。

とはいえ、これは私の少ない経験から言っているだけであって、魚は個体差が大きく、産地やブランド名によって簡単に区別できるものではない。しかし、だからこそシーボーン昭徳が目利きしたマサバが好みということが言えるのである。つまり、味が抜群に安定している。同社が選ぶマサバは、玄さばに関わらず、身に弾力があり、脂がサラッとしているのが特徴だ。上品な甘みがあり、身の濃いうまみと渾然一体となる。

漁場は五島沖や済州島沖。しかし10年ほど前からずっとマサバ漁は苦境に立っている。11~12月の寒サバのシーズンに海水温が下がらず、日本のEEZ内によい魚群が現れる回数が減ってきたからだ。加えて2014年頃から日韓漁業協定がこじれ、済州島近くまで日本の船が入れない。以前から頻発していた韓国漁船の違法操業に対して日本側が抗議したことに端を発しているが、虎網操業を続ける中国漁船といい、アジアの海ではまるでオトナの関係が築けない。頭が痛い話だ。

このセットで味わえる「玄さば」は、マイナス60℃という、通常はマグロにしか使わない超低温の冷凍庫で大事に保管し、鮮度を保っているものだが、東シナ海の現状が打開されない限り、残念ながら、どんどん希少な味になっていくだろう。(2018年11月)

【まるごと赤むつ】ジュリアン・ソレルのような高級魚 →要問合せ

東日本ではアカムツといわれても、どんな魚なのかイメージできる人は少ないだろう。アカムツは標準和名だが、山陰地方ではノドグロという。この地方名を聞くと、「ああ、N選手が大好物の魚ね」となるが、あの発言前からノドグロという呼び名のほうがよく知られていた。

 

外見は鮮やかで赤で、口の奥は闇のような黒。ジュリアン・ソレルのような劇的なこの魚は、市場では「超」の付く高級魚だ。そのため、「東のキンキ、西のノドグロ」というのが、料理雑誌や食品カタログの決まり文句である。だが、脂が非常にのった白身魚という点では、両者はたしかによく似ている。とりわけアカムツは、まるで霜降りの牛肉のように身全体に濃やかな脂を感じる。

 

シーボーン昭徳が使うアカムツは対馬産。上県町漁業協同組合のもので「紅瞳(べにひとみ)」というブランド名がある。その漁法には「地獄縄」という怖い名が付けられているが、簡単に言えば、はえ縄の一種で、ほとんど釣りといってよい。魚体を傷めず、鮮度よく水揚げし、主に福岡へ出荷する。

 

この「丸ごと赤むつ」は、エラ、ワタ、ウロコを取った下処理済み。解凍すればそのまま調理できる。塩焼きもいいが、煮付けがおすすめ。うまみが濃く、しっとりとした白身を楽しめ、脂が溶けた煮汁もうまい。サイズは下処理後で約150グラム。アカムツとしては中型である。1尾1800円(税込み・送料別)だが、この価格がかなりお買い得であることは、街の鮮魚売り場へ行けばすぐにわかる。(2018年10月)

シーボーン昭徳の塚原浩所長によると、漬け魚の商品開発を始めたのは12~13年前。やるからには半端なものは作れないということで、一から勉強し、漬け魚のメーカーや料亭の味噌漬けを食べ比べてみた。その中で味の違いが顕著に見られたのは、砂糖を使っているものと使っていないものだった。「一口目からガツンと来るのは砂糖を使っているもの。砂糖の代わりにみりんを使えば、最後まで食べ飽きない味になるんですよ」

みりん同様に砂糖にも、魚の生臭さを消し、うまみを引き出す力はあるといわれるが、どうしても余計な甘みを足してしまうのだろう。そこで塚原さんは、白味噌とみりん、酒粕のみで作ることにした。東京の有名料亭Nの味を参考にしたそうだ。

肝心要の味噌は、京都の老舗蔵「御幸町関東屋」の吟醸白味噌。ちなみに味噌業界の公正競争規約では、味噌に「吟醸」を冠する場合、大豆、米、麦の使用原料に条件がある。詳細は割愛するが、米麹の量が多い白味噌でポイントとなるのは精米歩合だ。一般的な味噌の原料は90%程度の精米歩合だが、吟醸味噌の場合は70%以下でなくてはいけない。その分、雑味が少ないということになる。

もう一つの特徴は酒粕。地元唐津の地酒「太閤」の板粕を蔵から仕入れ、それを足で踏み込み、8ヵ月熟成させる。そうしてねっとりと軟らかくなってから吟醸白味噌と合わせるのである。その馥郁たる香りが、この味噌漬けの風味を決定づける。

魚は、九州近海産のアカムツ、サワラ、マサバ、ブリ、タチウオ、そして、地元の冬の味覚アシアカエビ。ギンダラやメロ、シルバーといった輸入魚を使わないのは、シーボーン昭徳にとっては至極当たり前のことだが、そもそも世間ではなぜアラスカや南氷洋の魚を味噌漬けの定番魚と考えているのか? そのほうが謎だ。ギンダラやメロのジューシーな脂と味噌、砂糖が溶け合った「ガツンと来る味」が好きな人が多いせいかもしれない。(2018年9月)

夏は唐津のアジの季節だ。海水温の上昇や異常気象など、近年の環境変化で魚の漁獲海図の見直しを迫られている中でも、今年もマアジだけはなんとか平年並みの水揚げが見込まれている。養殖ではなく天然の魚を食べるなら、獲れている魚を楽しむことが自然の理に適っている。だから、今回もマアジをおすすめしたい。

実際、ウナギやサンマ、サケ、ホッケ、シシャモなどが品不足や高値が続いていることに対して消費者が強く危機感を持つ理由がわからない。獲れていないなら、獲れている魚を食すべきではないか。いや、消費者が危機感を持っているわけではなく、スーパーや生協が危機感を抱いているだけの話だ。不漁なのは儲かる魚。丑の日や北海道フェアなどでイベント的に売れる魚でもある。スーパーや生協は「イベント」や「記念日」が唯一無二の商機と思い込んでいる不思議な集団だ。旬も漁獲状況もへったくれもない。

今回紹介するアジは対馬沖で漁獲されたマアジ。対馬はなぜか長崎県に属するが、言うまでもなく、佐賀県や福岡県のほうが距離として近い。漁獲後、魚をできるだけ傷めないうちに唐津に水揚げすることができる。なおかつシーボーン昭徳の自社船「昭徳丸」の旋網船団が獲った魚なら、その鮮度は地元の仲買人の折り紙付き。腹に食べたものが残っていない状態で運搬船に揚げ、すぐにクラッシュアイスを隙間なく詰めて高鮮度のまま唐津港まで運んで来る。

鮮度のいいマアジは、焼いたときに独特の風味のよさがある。魚の味はけっして脂ののりだけではないということを実感するには、このマアジの天日干しが格好だ。シーボーン昭徳で買い付けを担当している営業次長の西木孝明さんによると、対馬のマアジは特に昔から風味に定評があるという。それも大型より小アジがいい。

一度西木さんの調理で、この天日干しの素揚げをご馳走になったことがある。骨までシャキシャキと食べられて、それはそれは美味この上ない逸品だった。これは逆に脂がノリノリの魚では味わえないおいしさなのである。干物を素揚げにするというのは意外に思うだろうが、だまされたと思って調理してほしい。(2018年8月)

魚はほとんど肉と同じ道を歩んでいる。現在の食生活のさまざまな傾向を集約すると、そのうち店頭には、養殖サケと養殖エビと養殖マグロと養殖ハマチくらいしか並ばなくなるだろう。いや、誠に結構なことではありませんか? 養殖技術の進歩とともに価格はどんどん下がるだろうし、子供も喜んで食べてくれそうだし、何より喜ばしいことに「時短調理」にうってつけの魚ばかりである。

 

フランス料理にはジビエの豊かな世界があり、それが決して特殊なものではないということは、魚に当てはめてみればよくわかる。魚は養殖のほうが特殊なのだし、それは食肉においても同様だ。畜産のほうが正統であると考えるのはおかしい。換言すれば、魚料理は元来「ジビエ」なのである。日本の近海だけでも3000種もの魚がいて、それを捕獲して食べていれば必然的に豊かな世界が広がっていく。ただし、これを楽に享受できるのは、おそらく今のうち。漁師がいなくなったら、自ら捕獲に出掛けなくてはいけない。

さて、今月のおすすめは、九州近海産のブリ、サバ、サワラ、マダイ、レンコダイのひと塩仕立て。ブリ、サバ、サワラなどは焼くだけでもおいしいが、うまみを引き出す程度の薄塩なので、料理素材として活用してもらいたいというのが、本品のセールスポイントである。

 

例えばサバは竜田揚げ、サワラはムニエルやホイル焼き、マダイは鯛飯や焼きほぐしてお茶漬け、レンコダイは熱したごま油をかけて白髪ネギを添える等々の食べ方が楽しめる。ちなみに写真の調理例は、この季節にぴったりのブリの甘酢あんかけ(サワラを使ったレシピあり)。「時短じゃ人生をちゃんと味わえないじゃん?」という、ひねくれたアナタにおすすめの切身セットなのである。(2018年7月)

【生切りあじ天日干し】季節限定! 冷凍原料ではない価値​ →要問合せ

九州近海のマアジの旬は初夏。まさに今だ。毎年シーボーン昭徳では、この時期限定で「生切り」のアジの天日干しを作り、ネット販売している。これが見逃せない逸品なのである。

「生切り」というのは、冷凍原料ではないということだ。というのも、我々が普段食べている干物は、十中八九、漁獲後に凍結された魚介を使っているのである。当然、加工時に解凍が必要なので、ドリップとともにうまみが多少なりとも流出する。凍結・解凍の温度変化のたびに細胞破壊を生じるリスクもある。裏を返すと「生切り」の天日干しは、うまみが充分に豊かなことに加えて、ふっくらやわらかな身を楽しめるというわけだ。
 

「天日干し」という観点でいうと、昔はすべての干物が天日干しだった。今は衛生面や製造効率が優先されて、機械干しが主流になった。その点、シーボーン昭徳は、透光性の高い強化フィルムで覆った「天日干しハウス」で干して衛生面をクリア。時間的な効率は追わないが、ハウス内の温度・湿度を管理して均一に干し上げる。

「生切り」は5月上旬から製造予定だが、いかんせん漁の状況次第なので、シーボーン昭徳のサイトでご確認いただきたい(たとえ「生切り」でなくとも、そこいらの干物より百倍うまいけど)。シンプルに焼いて食べるだけでなく、同サイトにはお茶漬けのレシピも紹介されている。それも涎が出るほどおいしそうなのだ。(2018年5~6月)

これは刺身ではない。シーボーン昭徳が地元唐津の燻製工房「燻や」とコラボレーションして作り上げた燻製である。燻やの主人はハムとソーセージの分野では、本場ドイツのコンクールで金賞を受賞しているほどの腕利き職人だが、魚の燻製は初めての試みだったので、両者が納得する味に至るまで6年かかったそうだ。

素材は、長崎県の五島沖や対馬沖で漁獲された寒サバと寒サワラ。ドイツ産の岩塩と三温糖のみの味付けで、約20時間かけてじっくりと水分を抜いていく。そして仕上げに桜とブナのチップで燻煙し、その香気を身にまとわせる。

いわばこれは「究極の干物」。飴色を帯びた身は、香りとうまみのカタマリである。これからの季節は、サラダ仕立てがおすすめ。切れ味のよい包丁を使い、ごく薄くスライスするのがよりおいしく味わうポイントである。(2018年4月)

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