21世紀の琳派

前田正博のモットーは「明るく、楽しく、美しく」

​撮影  野田耕一
​前田正博 作 色絵洋彩花入 径19.5×高23㎝
3月23日~27日のしぶや黒田陶苑での個展では、花入をメインに茶器(抹茶、緑茶、中国茶)や銘々皿も出品。かつて前田作品のシンボル的な文様だったフクロウが一部で復活している。その後、4月13日~17日に現代工芸藤野屋(栃木県佐野市)、5月6日~13日に現代陶芸寛土里(東京・ホテルニューオータニ内)で個展を行う。

前田正博(まえだ・まさひろ)

1948年、京都府生まれ。東京芸術大学大学院工芸科陶芸専攻修了。在学中から色絵磁器を志し、重層的な全面色絵を施す独自のスタイルを確立。サボテンやパイナップルを絵付けのモチーフにするなど型破りな作風で人気を博す。この5~6年は、色数をあえて抑えた幾何学的な文様と切れ味のよいフォルムを融合。絶えず前例のない表現を追求する。日本伝統工芸展の総裁賞など受賞多数。日本工芸会常任理事。2005年から六本木に工房を構える一方、横浜市内で前田正博磁器研究所を主宰。

陶芸家前田正博さんの個展が、3月から5月まで、3つの工芸サロンで立て続けに行われる。過去、そんな例はあまり聞いたことがない。個展は年に一度しかやらない、というか、できない陶芸家のほうがむしろ多いのではないだろうか。

 

「そりゃ大変ですね」と言うと、「全然! 僕は仕事好きだからさ」といつもの調子で返してくる。この人の口から「忙しい」とか「間に合わない」とか「疲れた」といった単語を聞いたことがない。たとえ個展を3日後に控えていようが、酒に誘われたら二つ返事でホイホイ出かけていく。朝まで呑んで、昼からまたサクサク仕事をしている。

 

前田正博の作品は、その人柄のまま、苦労の見えない芸術である。本人に聞いたことがないのであくまでも憶測だが、作品の中に苦労が見えるのを一等野暮だと思っている。手間は徹底的に掛けていながら、その手間を作品の売りにしていない。言うまでもなく、古今東西、一級品の芸術はすべて同類である。

 

だから、雑誌やテレビの取材は大の苦手だ。「いや、適当ですよ」などと韜晦すると、額面通り受け取られてしまうリスクがあるし、かといって、仕事の内容を詳細に語るのも嫌だ、というジレンマに陥るからである。そんなわけで、雲をつかんで帰った記者たちは、仕方なく日本の色絵磁器の伝統の中で前田作品を捉えようとしたり、京都府出身であることにこじつけて、仁清や乾山の系譜として語ったりする。苦し紛れとしかいいようがない。そもそも前田さんは、和絵具ではなく、洋絵具を使っている。

 

その一方で、高度なデザイン性や大胆な遊びを見せるという意味においては、現代の琳派といえないこともない。実際、現代陶芸でデザイン性を追求した作家はそう多くないのだ。機能的なデザインという意味ではない。見る者を一瞬で魅了し、ワクワクさせ、それを手中に収めたのちは、飽かさず楽しませるデザイン力のことである。端的にモダンでなくてはいけない。

光琳や乾山、石黒宗麿や八木一夫や加守田章二も、みんなそこを目指したんじゃないかと私は思っている。そういうやきものは「どう使うか?」なんて二の次。とにかく身近に置きたい。「欲しいものは欲しいのだ!」という駄々っ子のような精神状態になる。

 

いみじくも、3月に前田正博展を開催する「しぶや黒田陶苑」の目利きの指針は「美しく、しかも用いたいもの」であり、それは「用の美」とは一線を画すものだとする。そして、前田さん本人が常日頃モットーとしているのは「明るく、楽しく、美しく」。けっして、ふざけているわけではない。ふざけていると思う人は、明るく楽しい上に、そばに置きたいほど美しいやきものが、ほかにどのくらい存在するか調べてみてほしい。(2018.3.19 由良直也)

​坂本素行 作 象嵌珈琲碗
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