魚の目利きにイノチガケ

世界一うまい干物を作る「シーボーン昭徳​」(個人の見解です)

今月の

おすすめ

かんぱち切身ひと塩仕立て

​食卓に今だからこその美味を

かつてバブルが崩壊したあと、経済優先主義から何か本質的なものへの回帰を期待したが、それは幻想だった。やって来たのは、砂漠のような経済優先主義だけだった。リスク回避のみみっちさは、そもそもこの国の精神風土に合っているのだろう。リーマン・ショック後も、大震災後も、パラダイムシフトが起きることはなかった。体制が考えることと言えば、たかだか2週間の「運動会」による経済浮揚――これ以上に古臭く、創造性に欠けた、みみっちいやり口があるだろうか。だから「コロナ後」などと言われても、何一つ期待できない。

さて、このカンパチの切身は90gで430円(税込み・送料別)だ。スーパーマーケットでは、養殖物でもめったに目にしないが、シーボーン昭徳だから、もちろん養殖物ではない。長崎県五島の南方沖などで漁獲された天然カンパチである。だから、この値段。そもそもカンパチを狙う漁はなく、運よく獲れるだけ。これはブリの巻き網に混じったものを1本単位で買い付けた。文字どおりの希少品なので、百貨店などの取引先のあるシーボーン昭徳でも、自社サイトでしか売っていない。いわば知られざる美味である。

カンパチと言えば、やはり寿司ネタが定番だが、ブリに似て、照り焼きやあら煮など、加熱料理の楽しみ方も様々ある。この商品はひと塩にしているので、シンプルに焼くだけで食べられるが、シーボーン昭徳のおすすめは椀種。煮崩れしにくく、なおかつ、ふわっとした食感を楽しめ、上品なうまみが口に広がる。コロナ後、さらにみみっちくなりそうな食卓にぜひ。けっして、ヤケのヤンパチではなく。(2020年6月)

​九州の海の底ヂカラ

 

伊豆や外房で土産品として売られているアジの開きには、地魚ではなく、オランダ産や九州産のアジがよく使われているという。しかし、九州産のマアジを使っているのは、むしろ良心的な商品なのである。小田原や沼津の老舗干物店は、たいてい九州産のマアジを買い付ける。とくに長崎県と佐賀県で水揚げされるものが一級品だ。

 

「シーボーン昭徳」は佐賀県唐津市の水産加工会社。ここのマアジの開きを初めて食べたとき、これはもう「朝食の定番」というレベルではないと思った。その上、値段も手頃なところがうれしい。高ければうまいというのは、ある意味当たり前だからだ。

 

マアジだけではない。マサバもサワラもタチウオもカマスもブリもすべて、奇跡のようにおいしい。共通するのは、原料の鮮度やうまみの濃さ、そして脂ののりだが、マサバのように脂質が15%を超える魚でも味にしつこさがない。サラッとしてほのかな甘みさえも感じさせる上品な脂なのである。

魚の質は、水揚げ前にお見通し

 

言うまでもなく、最重要のポイントは魚の目利き。同社の主な買い付け場所は、地元唐津のほか、長崎、松浦の魚市場。セリでの勝負になるが、実際、プロの業者は、魚が水揚げされる前に、どの船がどこの漁場で何を漁獲しているか、おおよそ把握しているものだ。その情報収集をシーボーン昭徳はどこよりも徹底している。つまり、セリに至る前準備から「目利き」は始まっているのだ。

 

たとえばマアジの旬が近づいたら、ほぼ毎日社員全員で食べ、その年のベストな漁場を探り始める。それも大雑把ではない。碁盤の目に細かく漁場が区分された海図があり、その中で探っていくのだ。

 

さらに、毎日食べ続けていると、シーズン当初から旬へ向かって、脂がのっていく具合が手に取るようにわかる。その旬のピークに、狙いを定めていた海域の漁獲情報をキャッチしたとき、一気に買い付けに走るのである。

 

商品のクオリティの高さもさることながら、何より私はシーボーン昭徳のみなさんの人柄が好きだ。利益を上げるより、食べる人に喜んでもらえるほうが本望だと思っているフシがある。「非効率ゆえの美」という点では、工芸もシーボーン昭徳の魚も同じ。こちらは「非効率ゆえの美味」ということで、まさにイノチガケで目利きした魚である。ぜひとも……いや、必ずお試しください。

(2018年4月 由良直也)

ルーツは伝説の「十字船団」、そして五島の切支丹

シーボーン昭徳は、長崎市に本社を置く「昭徳水産(株)」グループの一員。大・中型旋網船団を4船団も保有する西日本きっての漁業会社だ。昭徳グループの創立は大正7年(1918年)。当時、五島沖や対馬沖で驚異的な漁獲量を誇ったレジェンド「十字船団」が起源だという。さらにそのルーツは、江戸時代まで遡ることができる。五島列島・中通島の浜串という村の漁師たちだ。

 

ふーむ、「五島」で「十字船団」なのか……。中学生の頃、遠藤周作を愛読していた私としては胸騒ぎを覚えてしまうが、はたしてそうであるらしい。つまり、十字船団は切支丹の末裔。現在の昭徳丸船団にもカトリック信者の漁労長がいるそうだ。まったくもって蛇足ながら、坂口安吾の『イノチガケ』も切支丹史に材をとった小説である。

​坂本素行 作 象嵌珈琲碗
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