魚の目利きにイノチガケ

世界一うまい干物を作る「シーボーン昭徳​」(個人の見解です)

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【昭徳 玄人の煮付け詰合せ】

失われたおふくろの味の“倍返し”

私の子供の頃、というのも昭和40年代の話だが、夕食のおかずは煮魚が多かった。北海道だから、イカやカスべ(エイ)、とりわけ多かったのはカレイで、プルーストではないが、夕暮れどきのわびしい情景とカレイの煮付けの匂いが記憶の中でセットになっている。たまにハタハタの煮付けが出てくるとうれしく思ったものだが、その他の煮魚には相当食べ飽きた。試しに本棚にある魯山人や吉田健一の食通本をめくってみたが、やはりというべきか、煮魚に触れた項は見当たらない。あまりにも日常的だったのだ、煮魚は。

 

それが今や、夕暮れどきに漂ってくる匂いと言えば、せいぜいニンニクか焼肉。言うまでもなく焼魚さえも匂ってこないが、焼魚より煮魚のほうがもっと作らなくなっていることは明白だ。12年ほど前、生協関係の仕事で20~40代の女性たちと話したことがあるが、10名前後の中に、サバの味噌煮を作ったことがある人がただの一人もいなかった。料理が決して得意ではない私でさえ何度も作ったことがあるというのに。

 

そんなわけで煮魚は、現代では「失われた時」ならぬ「失われたおふくろの味」。かつての日常食がひっくり返ってごちそうとなった。マアジ、マサバ、ブリかま、エボダイ、剣先イカという九州近海産の新鮮な魚介を素材にし、丸大豆醤油、天上みりん、都の料理酒、種子島の粗糖というこだわりの調味料を使って、至福の味わいに仕上げたこのセットなら、あの夕暮れどきのわびしさを記憶から見事に消し去ってくれることだろう。しかも、北海道と沖縄を除く地域では送料無料で届く。(2020年10月)

​九州の海の底ヂカラ

 

伊豆や外房で土産品として売られているアジの開きには、地魚ではなく、オランダ産や九州産のアジがよく使われているという。しかし、九州産のマアジを使っているのは、むしろ良心的な商品なのである。小田原や沼津の老舗干物店は、たいてい九州産のマアジを買い付ける。とくに長崎県と佐賀県で水揚げされるものが一級品だ。

 

「シーボーン昭徳」は佐賀県唐津市の水産加工会社。ここのマアジの開きを初めて食べたとき、これはもう「朝食の定番」というレベルではないと思った。その上、値段も手頃なところがうれしい。高ければうまいというのは、ある意味当たり前だからだ。

 

マアジだけではない。マサバもサワラもタチウオもカマスもブリもすべて、奇跡のようにおいしい。共通するのは、原料の鮮度やうまみの濃さ、そして脂ののりだが、マサバのように脂質が15%を超える魚でも味にしつこさがない。サラッとしてほのかな甘みさえも感じさせる上品な脂なのである。

魚の質は、水揚げ前にお見通し

 

言うまでもなく、最重要のポイントは魚の目利き。同社の主な買い付け場所は、地元唐津のほか、長崎、松浦の魚市場。セリでの勝負になるが、実際、プロの業者は、魚が水揚げされる前に、どの船がどこの漁場で何を漁獲しているか、おおよそ把握しているものだ。その情報収集をシーボーン昭徳はどこよりも徹底している。つまり、セリに至る前準備から「目利き」は始まっているのだ。

 

たとえばマアジの旬が近づいたら、ほぼ毎日社員全員で食べ、その年のベストな漁場を探り始める。それも大雑把ではない。碁盤の目に細かく漁場が区分された海図があり、その中で探っていくのだ。

 

さらに、毎日食べ続けていると、シーズン当初から旬へ向かって、脂がのっていく具合が手に取るようにわかる。その旬のピークに、狙いを定めていた海域の漁獲情報をキャッチしたとき、一気に買い付けに走るのである。

 

商品のクオリティの高さもさることながら、何より私はシーボーン昭徳のみなさんの人柄が好きだ。利益を上げるより、食べる人に喜んでもらえるほうが本望だと思っているフシがある。「非効率ゆえの美」という点では、工芸もシーボーン昭徳の魚も同じ。こちらは「非効率ゆえの美味」ということで、まさにイノチガケで目利きした魚である。ぜひとも……いや、必ずお試しください。

(2018年4月 由良直也)

ルーツは伝説の「十字船団」、そして五島の切支丹

シーボーン昭徳は、長崎市に本社を置く「昭徳水産(株)」グループの一員。大・中型旋網船団を4船団も保有する西日本きっての漁業会社だ。昭徳グループの創立は大正7年(1918年)。当時、五島沖や対馬沖で驚異的な漁獲量を誇ったレジェンド「十字船団」が起源だという。さらにそのルーツは、江戸時代まで遡ることができる。五島列島・中通島の浜串という村の漁師たちだ。

 

ふーむ、「五島」で「十字船団」なのか……。中学生の頃、遠藤周作を愛読していた私としては胸騒ぎを覚えてしまうが、はたしてそうであるらしい。つまり、十字船団は切支丹の末裔。現在の昭徳丸船団にもカトリック信者の漁労長がいるそうだ。まったくもって蛇足ながら、坂口安吾の『イノチガケ』も切支丹史に材をとった小説である。

​坂本素行 作 象嵌珈琲碗
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