魚の目利きにイノチガケ

世界一うまい干物を作る「シーボーン昭徳​」(個人の見解です)

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パクパクいわし​​

​魚好きは頭の回転が早い

故人とは言え商品PRに実名を出すのは憚れるので、女流作家のUさんとさせていただくが、そのUさんは98歳まで元気に仕事をし、天寿を全うした。亡くなる10年ほど前、雑誌の取材で会う機会があり、健康の秘訣を聞くと、「私はね、毎朝イワシを食べているのよ」と言った。DHA(ドコサヘキサエン酸)、IPA(イコサペンタエン酸)はおろか、不飽和脂肪酸という言葉でさえ、人口に膾炙されていないころである。

 

そもそも、日本の魚の代表格は、マグロやサケではない。イワシ、アジ、サバといった大衆魚が食卓に復活しないかぎり、魚食の復活は望めないと思うのだが、アジ、サバはまだしも、イワシはまったく人気のない魚になってしまった。骨が面倒、子供が食べない、生臭いという点では、魚の中の魚だからだ。

 

15~16年ほど前、漁獲量が落ち込み、変に高くなったことも影響しているかもしれない。たしかにマイワシは漁獲量の波が大きいが、今現在は比較的安定している。2018年の統計では、サバ類に次いで2位の漁獲量である。近年の日本人の不合理さは、獲れているものを食べず、獲れていないものをわざわざ輸入して食べていることだ。

 

本品の原料は、シーボーン昭徳では珍しく九州産ではない。ブランド魚の「金太郎いわし」で知られる大阪・岸和田産である。サイズとしては小型だが、脂ののりは充分。頭と内臓をとって天日で干してあるので焼くだけで食べられる。小型の分、骨も案外気にならない。天ぷらや南蛮漬けなど、アレンジも楽しめるはずだ。

 

唯一、問題と言えるのは送料。たくさん注文しないかぎり、商品価格より高くなってしまう。そのためシーボーン昭徳のリピーターは、送料無料のセットを注文し、同時に送料有料の商品も付けてもらうのだそうだ。やっぱり魚を食べている人たちは、頭の回転が早い。

​一緒に注文するなら、送料無料のこちらがおすすめ。「寒の旬魚 選りすぐりセット」​(3800円)

​九州の海の底ヂカラ

 

伊豆や外房で土産品として売られているアジの開きには、地魚ではなく、オランダ産や九州産のアジがよく使われているという。しかし、九州産のマアジを使っているのは、むしろ良心的な商品なのである。小田原や沼津の老舗干物店は、たいてい九州産のマアジを買い付ける。とくに長崎県と佐賀県で水揚げされるものが一級品だ。

 

「シーボーン昭徳」は佐賀県唐津市の水産加工会社。ここのマアジの開きを初めて食べたとき、これはもう「朝食の定番」というレベルではないと思った。その上、値段も手頃なところがうれしい。高ければうまいというのは、ある意味当たり前だからだ。

 

マアジだけではない。マサバもサワラもタチウオもカマスもブリもすべて、奇跡のようにおいしい。共通するのは、原料の鮮度やうまみの濃さ、そして脂ののりだが、マサバのように脂質が15%を超える魚でも味にしつこさがない。サラッとしてほのかな甘みさえも感じさせる上品な脂なのである。

魚の質は、水揚げ前にお見通し

 

言うまでもなく、最重要のポイントは魚の目利き。同社の主な買い付け場所は、地元唐津のほか、長崎、松浦の魚市場。セリでの勝負になるが、実際、プロの業者は、魚が水揚げされる前に、どの船がどこの漁場で何を漁獲しているか、おおよそ把握しているものだ。その情報収集をシーボーン昭徳はどこよりも徹底している。つまり、セリに至る前準備から「目利き」は始まっているのだ。

 

たとえばマアジの旬が近づいたら、ほぼ毎日社員全員で食べ、その年のベストな漁場を探り始める。それも大雑把ではない。碁盤の目に細かく漁場が区分された海図があり、その中で探っていくのだ。

 

さらに、毎日食べ続けていると、シーズン当初から旬へ向かって、脂がのっていく具合が手に取るようにわかる。その旬のピークに、狙いを定めていた海域の漁獲情報をキャッチしたとき、一気に買い付けに走るのである。

 

商品のクオリティの高さもさることながら、何より私はシーボーン昭徳のみなさんの人柄が好きだ。利益を上げるより、食べる人に喜んでもらえるほうが本望だと思っているフシがある。「非効率ゆえの美」という点では、工芸もシーボーン昭徳の魚も同じ。こちらは「非効率ゆえの美味」ということで、まさにイノチガケで目利きした魚である。ぜひとも……いや、必ずお試しください。

(2018年4月 由良直也)

ルーツは伝説の「十字船団」、そして五島の切支丹

シーボーン昭徳は、長崎市に本社を置く「昭徳水産(株)」グループの一員。大・中型旋網船団を4船団も保有する西日本きっての漁業会社だ。昭徳グループの創立は大正7年(1918年)。当時、五島沖や対馬沖で驚異的な漁獲量を誇ったレジェンド「十字船団」が起源だという。さらにそのルーツは、江戸時代まで遡ることができる。五島列島・中通島の浜串という村の漁師たちだ。

 

ふーむ、「五島」で「十字船団」なのか……。中学生の頃、遠藤周作を愛読していた私としては胸騒ぎを覚えてしまうが、はたしてそうであるらしい。つまり、十字船団は切支丹の末裔。現在の昭徳丸船団にもカトリック信者の漁労長がいるそうだ。まったくもって蛇足ながら、坂口安吾の『イノチガケ』も切支丹史に材をとった小説である。

​坂本素行 作 象嵌珈琲碗
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