玩物喪志の記

好文居主人

第1回 硯

​その3 唐代の陶硯とお遊びレンガ硯

知り合いの古美術商の方が、「コレクターの方がお持ちのものを処分されるが、その中に唐の陶硯がある。あなたは興味がおありだろう」と声をかけてくれた。次に述べる漢代のレンガの硯は私のお遊びのもので、ちょっと論外だから、私の持つ硯の中では一番古いものとなる。

上海博物館には唐代の箕形の端渓硯が収蔵されている。私の硯と同形のものである。中国の分類からすると箕の形、箕形硯というらしい。箕形は古い形のものということになる。

​発掘品なので使用の跡はなく、私も使ってみる勇気がないので墨がおりる感触はよくわからない。持つこと、そして見て楽しむ範囲を出ていない。

吉川英治『三国志』の紀行ビデオ制作に立ち合いで、中国取材旅行に同行した折(平成6年5月)、案内の河南省の役人に、よかったら持って帰らないかと、半分に欠けた後漢代と思われるレンガをもらった。昔黄河筋だったらしい砂地に埋まっていたものである。旅行の前半だったので以降ずっと抱えて旅行する羽目になった。

帰国してから夜な夜な彫刻刀で削って硯面を作った。予想以上に硬く、池の部分の溝を彫るのにてこずった。一応出来上がり、試しすりをしてみようと、水をたらすと、さーっと抜けてしまう。硬さはあるが、締まっていないのだ。

 

そこでまた漆工芸作家氏の出番だ。削った時、石のような小粒子のものがはねて小さな穴ができているところを木屎(こくそ)で穴埋めし、その上の硯面だけ漆を塗って水止めをしてもらった。一度テストに墨をすってみたが、一応は墨をおろすことはできた。実用になるかどうかはわからない。側面には模様が入り、なかなか存在感はある。お遊び、お遊び。

(第1回了)

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​坂本素行 作 象嵌珈琲碗
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